新システムへの移行は問題なく完了。データも移り、動作も安定。プロジェクトとしては「成功」のはず——なのに現場を見ると、業務フローは旧システム時代のままで、せっかくの新機能はほとんど使われていない。私が実際に目にした光景です。この記事では、この肩透かしの正体から始めて、PMBOK第7版の原則⑫「変革」を取り上げます。これで12の原則は最終回です。
この記事でわかること
- システムを納品しても業務が変わらない仕組み
- 変革の原則が言う「成果物を届けること」との違い
- 定着支援を計画に組み込むという発想
SIerでシステムを「納品した後」まで見てきたPMの筆者が、PMPの学び直しで出会ったこの原則を現場の言葉で書きます。
変革の原則の核心は、プロジェクトのゴールは成果物を届けることではなく、その成果物を通じて組織や人が「望ましい状態」へ変わっていくプロセスを支援することにあります。システムやサービスは手段で、本当に届けたいのはその先の変化(業務が楽になる、意思決定が速くなる)。納品はゴールではなく、変革のスタート地点です。
刷新したのに、現場は旧システムのままだった
PMとしてまだ経験の浅かった頃、業務システムを刷新する案件でのことです。機能面では、新システムへの移行は問題なく完了しました。データも移り、動作も安定している。プロジェクトとしては「成功」のはずでした。私も、無事にリリースできて肩の荷が下りた気でいました。
ところが、現場を見て驚きます。業務フローが、旧システム時代のまま変わっていなかったのです。せっかく追加した新機能は、ほとんど使われていない。現場の人たちは、慣れた手順を新システム上で再現しているだけで、本来なら楽になるはずの業務が、以前と変わらない負荷のまま回っていました。システムは変わったのに、仕事のやり方は変わっていない。私が「納品」をゴールにしていたことの、痛い証拠でした。
この経験から、私はプロジェクトの計画に「定着支援」を組み込むようになりました。リリースと同時に、新しい業務フローに沿ったトレーニングを実施し、現場の疑問に答える窓口を用意する。「使い方」だけでなく「新しい働き方」を一緒に描く。手間はかかりますが、これをやると、新機能が実際に使われ、狙った変化が現場に根づくようになりました。届けるべきは機能ではなく、変化そのものだったのです。
納品をゴールだと思い込んでいた頃
長いあいだ、私にとってプロジェクトのゴールは「システムを納品すること」でした。無事にリリースできれば、仕事は完了。そう考えていたのです。
でも、納品をゴールにすると、その先の変革がまるごと置き去りになります。成果物は「変化のための道具」であって、「変化そのもの」ではない。道具を渡しただけで満足していては、望ましい未来は訪れません。「何を納品したか」ではなく「どんな変化が起きたか」を成功基準に据える。この一段深い視点が、プロジェクトの価値を決めるのだと気づきました。
なぜ変化は自動では起きないのか
成果物は、作れば形になります。でも、変化は自動では起きません。人には慣れたやり方があり、新しいものへの不安もあります。放っておけば、立派なシステムがあっても、人は元のやり方に戻っていく。「作ったのに使われない」を防ぐには、納品の先にある「定着」まで視野に入れる必要があるのです。
これから意識していきたいこと
- リリース後の定着支援やトレーニングを、最初から計画に組み込む
- 変革の抵抗要因(現場の慣れ・不安)を、事前に把握しておく
- 成功基準を「納品したか」ではなく「望ましい状態に変わったか」に置く
よくある質問(FAQ)
Q. 定着支援まで、受注側の責任範囲なの?
契約次第ではあります。ただ、定着まで見据えて提案できるベンダーは信頼されますし、「使われないシステム」を作ってしまうリスクも減らせます。範囲を越えても、視点として持っておく価値は大きいです。
Q. 変革への抵抗は、どう和らげればいい?
一方的に押しつけないことです。なぜ変えるのか、現場にどんな得があるのかを一緒に描き、早い段階から巻き込む。変化を「させられるもの」ではなく「自分たちのもの」にできると、抵抗はぐっと減ります。
ここまでの整理
変革の原則とは、成果物を届けることではなく、その先にある「望ましい変化」の実現までを支援することでした。あなたのプロジェクトのゴールは、「納品」になっていませんか、それとも「変化」になっていますか? これで12の原則は一区切りです。次からは、原則を実務の現場に落とし込む「8つのパフォーマンスドメイン」へ進みます。
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