一つの漏れもなく実装したのに「これじゃない」と言われた ― 「価値」の原則が教える本当の成功基準

要件定義書のとおりに、一つの漏れもなく実装した。テストも通り、品質は文句のつけようがない。それなのに利用部門の反応が鈍い——私が実際に経験した「完璧な的外れ」の話です。この記事では、その案件で何がズレていたのかから始めて、PMBOK第7版の原則④「価値」が言う本当の成功基準を考え直します。

この記事でわかること

  • 仕様の完成度と、現場の満足がズレる理由
  • 「価値」の原則が言う、本当の成功基準
  • 要件の背後にある「誰のどんな価値か」を言葉にする方法

SIerで開発案件のPMをしている筆者が、PMP学び直しのノートを現場の反省と一緒に記事にしています。

価値の原則が言うのは、プロジェクトの成功は、予定どおり納品することではなく、利用者やビジネスに価値を生むことだということです。作ったものが実際に「誰かの役に立った」「業務が楽になった」——そこまで届いて初めて、プロジェクトは価値を生んだと言えます。視点を「成果物」から「その先の効果」へずらすのが、この原則の核心です。

完璧な実装が、現場の役に立たなかった

まだPMを任されるようになって日が浅い頃、業務システムの照会画面を刷新する案件でのことです。要件定義書は詳細に作り込まれていて、私たちはそのとおりに、一つの漏れもなく機能を実装しました。テストも通り、品質面では文句のつけようがない出来だと思っていました。

ところが、利用部門に使ってもらうと反応が鈍い。よく聞くと、「必要な情報は全部あるけれど、実際に使う場面で、見たい情報が一目で入ってこない」というのです。仕様に書かれた項目はすべて揃っている。でも、現場が本当に欲しかったのは「項目が揃っていること」ではなく「一目で判断できること」でした。仕様の完成度と、現場が求める価値が、静かにズレていたわけです。

この経験から、要件定義の段階で一つルールを足しました。機能ごとに「この機能で、誰の、どんな業務が、どう楽になるのか」を一文で書き出すのです。たった一文ですが、これを書こうとすると「あれ、これは何のための機能だっけ?」という空白が事前にあぶり出されます。作る前に価値の輪郭を確かめる。それだけで、「これじゃない」を大きく減らせるようになりました。

「要件どおり=価値」だと信じていた頃

かつての私は、「要件定義書に書いてある=価値がある」と暗黙に信じていました。書かれているのだから、作れば喜ばれるはずだ、と。

でも、要件はあくまで「手段の記述」であって、「目的そのもの」ではありません。書かれた要件の背後には、必ず「本当はこうしたい」という目的があります。そこを確認せずに文字面だけ実装すると、完璧な「的外れ」が出来上がります。「何を作るか」の前に「なぜ作るか」を一度たしかめる。この一手間が、価値と仕様のズレを防ぎます。

なぜ「約束どおり」が価値から遠ざかるのか

仕様書は、あくまで「作るものの約束」です。ところが、その約束が「本当に価値を生むもの」とズレていることがあります。約束どおり作れば作るほど、価値からは遠ざかる。そんな皮肉さえ起こり得ます。だから、仕様の完成度とは別の軸で「価値が出ているか」を見る必要があるのです。

意識するようになった3つのこと

  • 要件ごとに「誰の・どんな価値か」を一文で書き出してから着手する
  • 仕様の完成度と、利用者の満足度を、別の軸として分けて確認する
  • リリースして終わりにせず、狙った価値が実現できたかを後から振り返る

よく聞かれること

Q. 「価値」と「品質」は何が違う?
品質は「作ったものがきちんとしているか」、価値は「そのものが役に立ったか」です。バグゼロ(高品質)でも、使われなければ価値は生まれません。近いようで別の軸です。

Q. 顧客が「仕様どおりでいい」と言う場合は?
それでも「この仕様は何のためか」を一度共有しておくと安心です。目的をすり合わせておけば、後で「これじゃない」になったときに、一緒に軌道修正しやすくなります。

まとめ

価値の原則とは、仕様どおりに作ることではなく、その先にある「誰かの役に立つ」を実現することでした。あなたが今作っている機能は、「誰の、どんな業務を、どう楽にする」ものか、一文で言えますか? 言葉にしてみると、価値の輪郭がぐっとはっきりします。

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