案件担当者の要求に応え続けたら、決裁者は別を見ていた ― ステークホルダーの原則が教える「誰と握るか」

熱心な案件担当者の要望に、ていねいに応え続けていた。信頼されている手応えもあった。それなのに後工程で、決裁権を持つ役員がまったく別の優先順位を持っていたことが判明する——ステークホルダー対応でいちばん切ない失敗を、私は実際にやりました。この記事では、その顛末から始めて、PMBOK第7版の原則③「ステークホルダー」が言う「関与し続ける」の意味を確かめます。

この記事でわかること

  • 「要求に応えているのに満足されない」が起きる構造
  • 「声の大きい人=重要」ではない理由と、決裁者の見つけ方
  • キックオフで作っておきたい関係者の相関図

筆者はSIerのPMとして、社内外の関係者調整に日々向き合っています。PMPの学び直しで得た言葉を、その実感と突き合わせながら書いています。

ステークホルダーの原則が言うのは、関係者を見つけ、期待や影響力を理解し、プロジェクトの間ずっと建設的に関わり続けるということです。ポイントは「ずっと」の部分。人の期待は状況やフェーズで変わり、登場人物も入れ替わるので、特定・分析・関与を継続的に回し続けることが求められます。

案件担当者の要求に応えていたら、決裁者は別を見ていた

大規模案件の一角を任されたばかりの頃、私は表向きの案件担当者の要求に、ていねいに応え続けていました。担当者は熱心で、要望も具体的。応えれば応えるほど信頼されている手応えもあり、当時の私は「うまくいっている」と思い込んでいました。

ところが後工程になって、決裁権を持つ役員が、まったく別の優先順位を持っていたことが判明します。案件担当者と役員の期待がズレていたのに、私は案件担当者の声だけを「顧客の総意」だと思い込んでいたのです。結果、稟議回覧の説明から一からやり直しとなり、私たちも案件担当者も大きな手戻りになりました。

この失敗のあと、私はキックオフの段階で必ず「ステークホルダー相関図」を作るようにしました。誰がどの権限を持ち、どれくらい関心が高いのかを、影響度と関心度の二軸でマッピングする。地味な作業ですが、これをやるだけで「誰の期待を、いつ、どう握っておくべきか」が見えるようになり、同じ失敗を繰り返さなくなりました。

声の大きさと決裁権を、私も取り違えていた

かつての私がそうだったように、「声の大きい人=重要なステークホルダー」と考えてしまう人は多いです。でも、発言力と決裁権はまったくの別物です。

いちばん要望を出してくる人が、実は予算にもスコープにも権限を持っていない、ということは珍しくありません。逆に、会議にほとんど顔を出さない人が最終決裁者だったりします。関心の高さに引きずられず、「この人は何にどれだけの影響力を持つか」で冷静に見ることが、遠回りに見えて確実です。

プロジェクトの評価を下すのは、成果物ではなく「人」

なぜここまで関係者にこだわるのか。プロジェクトの評価を最終的に下すのは、成果物そのものではなく「人」だからです。その人たちの期待とズレたまま突き進むと、どれだけ仕様どおりに作っても「これじゃない」になってしまう。関係者との関わりは、品質やスケジュールと同じくらい成否を分けます。だから関係者の一覧は「最初に作って終わり」ではなく、プロジェクトの間ずっと更新し続ける生きた道具なのです。

今、大事にしていること

  • キックオフで、影響度×関心度のステークホルダー相関図を一度は描く
  • 表に出てこない決裁者がいないか、案件担当者に「最終的に誰が判断しますか」と確認する
  • 期待は変わる前提で、関係者の温度感を定期的に見直す

ここでよく迷うところ

Q. 相関図は毎回きっちり作らないとダメ?
規模によります。小さな案件なら頭の中の整理で十分なこともあります。ただ「決裁者は誰か」だけは、どんな案件でも早めに確認する価値があります。

Q. 声の大きい人を軽視してよい、ということ?
いいえ。その人の声は現場の重要な情報です。ただ「その要望を仕様に反映すべきか」は、決裁構造の中で判断する、という切り分けが大切です。

最後に

ステークホルダーの原則とは、声の大きさではなく、権限と関心度で関係者を見極め、関わり続けることでした。あなたのプロジェクトでは、「最終的に判断する人」の顔がはっきり見えていますか? 一度、関係者を図にして眺めてみると、思わぬ空白が見つかるかもしれません。

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