キックオフで、我ながら良い出来のリスク管理表を作った。想定される脅威を洗い出し、対応方針も書き込んだ。そして——そこで満足して、二度と開かなかった。数ヶ月後、表に載っていないリスクが顕在化して後手に回る——正直に告白すると、私の実体験です。この記事では、この失敗の構造から始めて、PMBOK第7版の原則⑩「リスク」の中身に踏み込みます。
この記事でわかること
- リスク管理表が「作って終わり」になると起きること
- リスクの原則が言う「脅威だけでなく好機も」の意味
- リスク対応を継続的に回すための運用の工夫
SIerで複数案件を見ているPMの筆者が、PMP学び直しの途中で「うちのリスク管理表は生きているか」と自問しながら書いた記事です。
リスクの原則が求めるのは、脅威(マイナス)だけでなく好機(プラス)も含めて継続的に評価し、状況に応じてリスクへの対応を最適化し続けることです。ポイントは「継続的に」の部分。リスクは時間とともに増えたり消えたり形を変えたりするので、一度きりの評価では足りません。
放置したリスク管理表が、後手対応を招いた
初めて自分の案件を持った頃のことです。キックオフのとき、私はしっかりしたリスク管理表を作りました。想定される脅威を洗い出し、対応方針も書き込んだ、我ながら良い出来の表でした。そして——そこで満足してしまったのです。プロジェクトが動き出すと日々の対応に追われ、その表を開くことは、いつしかなくなっていました。
しばらくして、想定していなかったリスクが顕在化します。主要な協力会社の体制変更でした。キーメンバーが抜けることになり、開発の一部が滞りかけたのです。もし管理表を定期的に見直していれば、体制の兆候を早めに拾い、代替要員の手配を先に動けたかもしれません。でも表は止まったまま。気づいたときには対応が後手に回っていました。
この反省から、運用を一つ変えました。月次報告のタイミングで、リスク管理表を必ず開いて見直すことをルーチンにしたのです。新しいリスクはないか、既存リスクの状況は変わっていないか、対応は進んでいるか。たった月一回の習慣ですが、これで「見えていないリスク」が生まれにくくなり、後手に回ることが激減しました。
リスク管理表は「作れば終わり」だと思っていた
かつての私にとって、リスク管理表は「作ること」がゴールでした。立派な表ができた時点で、仕事を終えた気になっていたのです。
でも、リスク管理表の価値は「作ること」ではなく「更新し続けること」にあります。むしろ、作った表を一度も見返さないなら、作らないのとほとんど変わりません。試験でも、「リスクは一度洗い出せば十分」という考え方は正解になりにくいです。リスク管理は静止画ではなく動画。常に更新され続けて初めて意味を持つ、と捉え直すと腑に落ちます。
いちばん怖いのは「見えていないリスク」
リスク管理でいちばん怖いのは、リスクそのものより「見えていないリスク」です。キックオフ時点で見えるリスクは、プロジェクト全体のごく一部にすぎません。進むにつれて新しいリスクが現れ、古いリスクは状況が変わる。更新を止めた瞬間、管理表は「過去のスナップショット」になり、現実とズレていきます。もう一つ、リスクはマイナスだけではありません。「うまくいけば前倒しできる」といったプラスのリスク(好機)も、活かすべき対象です。
私が続けている工夫
- リスク管理表を、月次など定期的なタイミングで必ず見直す
- 脅威だけでなく、好機(プラスのリスク)も記録して活かす
- 各リスクの対応方針(保有・軽減・移転・回避)と進捗を明確にしておく
よく聞かれること
Q. 好機(プラスのリスク)って、具体的にどんなもの?
たとえば「新しいツールを導入すれば工数を減らせるかもしれない」といった、うまくいけば得をする不確実性です。脅威を避けるだけでなく、好機を取りにいくのもリスク対応の一部です。
Q. 対応方針の「保有・軽減・移転・回避」はどう選ぶ?
影響と発生確率で見当をつけます。小さいリスクは受け入れ(保有)、大きいものは減らす(軽減)、専門外は外部に委ねる(移転)、割に合わないものは避ける(回避)。状況で使い分けます。
振り返って
リスクの原則とは、一度作って満足することではなく、脅威も好機も含めて評価し続け、対応を最適化し続けることでした。あなたのリスク管理表は、先週も開かれましたか? もし眠っているなら、まず月一回開く習慣から始めてみませんか。
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